

「ボーダーレス・アート」または「アウトサイダー・アート」という美術ジャンルをご存知ですか?
精神的な障害を持った人たちや、知的障害を受けて福祉施設に暮らす人たちによって作られた絵画や陶芸の作品群。正規の美術教育を受けていない人たちによって伝統や流行などとは一切無関係に製作された人間の真に根源的な作品群を指します。
いま滋賀県近江八幡の町並み保存地区の民家(NO−MA ボーダーレス美術館)でスイスローザンヌのアール・ブリュット・コレクションと提携した「アール・ブリュット/交差する魂」展が行われています。
欧米ではすでに評価が確立されている「ボーダーレス・アート」もわが国ではまだ美術界もそして福祉の分野でも依然として無理解でしかありません。
伝統や格式やはたまた教育の系列を重んじる美術界はともかく彼らの生活の基盤たる福祉の世界でも彼らの作品、制作活動に理解を深めているとは思えません。



ヴィレイム・ファン・へンクの仮想の都市。彼の描いた緻密に描かれた「東京」は東京駅を縦に分断し、その地下では三里塚反対闘争のデモ隊が流れています。
ペンで描かれた辻勇二の連作「心で覗いた僕の町」も名古屋の駅前のような架空の都市が鳥瞰で細密に描かれている。画用紙一枚の製作に1ヶ月がかかるといいます。
緻密さでは本岡英則の作品も忘れられない。彼はコピー用紙や広告の紙に電車の正面図がびっしりと隙間なく描かれている。紙は継ぎ足されてそれでも描き止まりません。
喜捨場盛矢は文字だけを画面いっぱいに書き込む。彼の父親は「漢字の意味はわからないけれど、漢字の持つ空間や画数の造形的な表現に魅力を感じているのだろう」と話します。
陶芸では西川智之の作品が目を引きます。知的障害児童施設「近江学園」で生活する西川は細かな同じパーツを集合体によって作品をつくっています。その迫力はまるで縄文土器を思い起こすような迫力に満ち、他の追従を許しません。
自閉症の障害がある澤田真一のトゲのいっぱい生えた顔の作品はユーモアを持ちながら何か不条理に向かって叫び声をあげているように思えます。
今ここに多くの作品に接してみると民族や歴史や文化の違いを越えて人間が表現(自己表現と置き換えても)に向かう精神と直接的な形には共通の何かが見て取れます。
彼らは感じていないかも知れないけれど、さまざまな社会的規制や差別、社会的破棄の中から精神の自由と製作のちからを獲得する、権力におもねる作家たちがとうになくしてしまった、その真に人間の尊厳をこれらの作品の中から感じ取ることが出来ると思います。

「アール・ブリュット/交差する魂」
5月11日まで滋賀県近江八幡市永原町上の「NO-MA」で、その後5月24日から7月20日まで松下電工汐留ミュージアム(東京)で巡回展が行われる。
2008・04・12